Titanium - チタン

Summary

腕時計やアクセサリー、ゴルフクラブなど、日常生活でチタンが活用されるシーンを多く目にするようになりました。

強度や耐食性に優れることに加え、生体親和性が高く人間の体内に埋め込むパーツなどに活用できること、光触媒作用によって有害物資を除去するな

ど、チタンは他の金属には珍しい多くの特徴を備えています。他にも、酸化皮膜による鮮やかな発色が可能で、アートの世界など、今後、さらに活躍の場が増える素材として期待されています。

今回は、チタンの特徴を網羅的にお伝えします。

目次

1. 概要

1.1. 歴史

1.2. 基本データ

2. 特性

2.1. 軽量性

2.2. 強度

2.3. 耐食性

2.4. 小さい容積比熱

2.5. 光触媒作用

2.6. 生体親和性

2.7. 発色性

2.8. 音響特性

2.9. 加工における問題点

3. チタンの種類

3.1. 純チタン

3.2. チタン合金

4. チタンの用途

4.1. 軽量、高強度、高耐食

4.2. 極低温特性・超伝導特性

4.3. 非磁性

4.4. 無毒性・生体親和性

4.5. 短い放射性・半減期

4.6. その他


1. 概要

チタンは元素記号Tiで表される銀灰色の金属です。チタンを含む天然鉱物として、チタン鉄鉱やルチルなどがあります。チタン鉄鉱はチタンの主原料であり、工業的資源として活用されています。

地球の地表付近に存在する実用金属のなかでは4番目に豊富に存在します。しかし、製錬が難しかったため、現在のように工業分野などで広く使われる

ようになったのは戦後以降です。特に高度経済成長の時代には、多くの面で日本の発展を支えてきました。

チタンは優れた物性に加え、動植物への生体親和性がよく、環境に優しいため、これからの社会の発展を担う素材として高い注目を浴びています。

1.1. 歴史

1.1.1. チタンの発見と量産への軌跡

1791年、イギリスのメナカン谷において、鉱物学者・牧師ウイリアム・グレゴーによって発見されました。グレゴーは採取した磁性のある黒色の砂の中に未知の金属元素があると考え、発見地にちなんでメナカナイトと名づけました。

1795年、ドイツの科学者マルティン・クラプロートは、ルチル鉱が特異的な酸化物であることを発見。鉱石中に封じ込められた元素であったことから、オリンポスの神々との戦いに敗れ、地底の奥深くに封じ込められたギリシャ神話の巨人タイタンにちなんで、チタンと名づけました。

1910年、アメリカの科学者マシュー・ハンターが純度99.9パーセントのチタンの抽出に成功したことで、チタンが純粋な金属として世に知られることになりました。

1948年、ルクセンブルクのウィリアム・クロールがチタンの工業的量産方式(クロール法)を開発したことで、世界中でチタンが活用されるようになりました。クロール法は現在でも使われています。

1.1.2. 燕市・三条市における技術開発

日本の板金加工は日本刀製造技術をはじめ世界で最も高度な板金技術であるといわれています。実用的な刃物製造だけでなく、食器や調理具、芸術作品のなかにも応用されています。

数ある実用金属のなかでもチタンは加工が非常に困難とされています。新潟県の燕市、三条市(かつては両市を合わせて燕三条市)では、江戸時代より蓄積された高度な技術でチタンの加工を可能にしてきました。チタンの加工を最も得意とする地域は世界中探しても燕市、三条市だと言っても過言ではないでしょう。

燕市、三条市のものづくりは江戸時代の和釘づくりがはじまりであるといわれています。

我が国は近代になり西洋文化を取り入れ、金属洋食器を製造するようになりました。その後、作業工具、家具の金属部品、ハサミ、爪切りなどの生活用品へとその範囲が広がっていきました。なかでも、異種金属の融合技術を応用した近代的な包丁づくり(錆びないステンレスと切れ味の良い鋼を組み合わせた刃物)は特筆すべき技術開発だったと言えます。

現代では、難加工材であるチタンの絞り成形、発色加工等、最先端の現代科学技術を応用したものづくりが行われています。江戸時代からのアナログ技術と現代科学のデジタル技術が統合され、世界一の技術が活躍しているのです。

1.2. 基本データ

・元素記号:Ti

・融点:1,668℃

・電子配置:[Ar] 3d2 4s2

・原子量:47.867u ± 0.001u

・電子数:2, 8, 10, 2

・原子番号:22

2. 特性

チタンには、一般的に知られている「軽い・強い・錆びにくい」という3点をはじめとして、さまざまな特性があります。

2.1. 軽量性

チタンの比重は鉄の約3分の2、銅の約半分であり、軽量化が必要な用途に使われています。

2.2. 強度

①比強度(引張強さを比重で割った値)が高い

一般的にいう材料の「強さ」とは「引張強さ」を指し、弾性変形→塑性変形→破壊→破断というプロセスにおいて、材料が耐えうる最大の応力を意味します。破断直前である場合もあれば、損傷の途中である場合もあります。

比強度とは、その引張強さを比重で割った値であり、チタンの比強度は鉄の約2倍、アルミの3倍です。構造材料として使用する場合、これら金属材料の約半分、3分の1で済むことになります。特にチタン合金は、約500℃までの環境において、実用金属中で最高のの比強度を示します。

②「耐力:引張強さ」の比率が高い

ひずみが一定の大きさを超えると、ひずみと応力の関係が比例しなくなり、応力を取り除いても元に戻らず変形したままの状態になります。この現象を「降伏」といいます。

構造用鋼などには降伏点がありますが、チタンやアルミニウム、銅などを含め、多くの金属には明確な降伏点がありません。

そのような材料では、基準を降伏強さの代わりに「耐力」という基準を用います。耐力とは、応力を取り除いたときに永久ひずみ(変形)を残す応力を指します。(0.2%の永久ひずみが残る場合、0.2%耐力)

チタンの耐力は大きく、普通鋼の179(N/㎟)に対して、純チタンは277(N/㎟)、合金は909(N/㎟)となっています。また、引張強さに対する耐力の比率が高く、特にチタン合金では90%以上を示します。

③疲労強度が優れている

応力条件が一定であっても、荷重が常に変動したり周期的に加えられたりすると、小さな傷や応力の集中しやすい部分から塑性変形が起き、割れが生じることがあります。これを金属疲労と呼びます。

チタンは引張強度に対する疲労強度が顕著で、疲労比(疲労強度/引張強さ)0.5~0.6を示します。(鋼の疲労比は0.2~0.3)


④衝撃性質が優れている

衝撃を受けた際に、塑性がほとんど生じることなく破壊される材料(ガラス、セラミックスなど)は「脆性材料」と呼びます。一方、金属のように塑性を経て破壊されものを「延性材料」と呼びます。

脆性破壊に対する物質の抵抗の程度を靱性といい、材料の粘り強さを意味します。

工業用純チタンは常温よりも低温で高い靱性をもち、チタン合金も、鋼に見られるような低温における急激な脆化現象を示しません。

⑤可撓性が低い

可撓性とは、物体が柔らかく、折り曲げることのできる性質を表します。

折り曲げるときの抵抗が少なく、しなやかに変形する状態を「可とう(撓)性が高い」といいます。「弾性」との違いは、弾性の方がさらに柔らかく伸び率がある状態を指す点です。

引っ張りや曲げによって材料に応力を加えたとき、ひずみが小さい間はひずみと応力は比例し、応力を取り除くと、ひずみも無くなります。

この応力とひずみの比例関係が「フックの法則」であり、その比例係数を弾性率(弾性係数)といいます。

引張、圧縮、曲げなど材料が伸び縮みする方向の弾性率をヤング率と呼び、チタンのヤング率は鉄、ステンレスの約2分の1です。

なお、弾性率を決めている因子は原子間結合力と原子間距離なので、他の強さとは異なり合金の種類や熱処理で大きな違いはありません。

出典:NICアルファマガジン.com

2.3. 耐食性

第四族元素のひとつであるチタンは、共有結合の手を4本もっています。この共有結合は化学的に安定していることが特徴です。純チタンは多くの条件でステンレス鋼をしのぐ優れた耐食性を示し、機械的性質も低炭素鋼に匹敵します。そのため、おもに耐食性を必要とする部材には、純チタンがそのまま使われることが多いです。

この耐食性は、チタンが極めて活性な金属であることに由来します。チタン


は酸素に触れると酸化し、いったん酸素と結合すると、それを引き離すのがとても難しいという性質があります。

傷や摩擦で表面が露出しても、強固な酸化皮膜が急速に形成されるため、皮膜下のチタンが保護され酸化を防ぎます。特に塩素イオンに対して強い耐食性を示し、海水に対する耐食性は白金と同程度です。

2.4. 小さい容積比熱

純チタンの熱伝導率は17(W/mK)で、鉄の約1/4、銅の約1/23と比べると低いですが、これらの金属よりも、温まりやすく冷めやすい性質を持ちます。

その理由は、チタンの比熱が鉄やステンレス鋼とあまり変わらないものの、チタンの比重が小さく、単位体積あたり1度上昇させるのに必要な熱量が、同じ体積の鉄やステンレス鋼と比較して、約6割で済むからです。

チタン製のアクセサリーが冬場に冷たく感じにくいのは、容積比熱だけでは


なく、熱浸透率が低いことによる相乗効果によるものです。さらに、鉄やステンレスに比べ、同じ強度を得るための厚さが薄くて済むため、より熱容量と熱伝導が小さくなることも理由として挙げられます。

※比熱:単位質量の物質の温度を1度上げるのに必要な熱量。

※熱浸透率:互いに異なった物質間の伝熱を説明する物理量であり、相手側の物質から「熱を奪い取る能力、または熱を迅速に受け入れる容量」という意味あいをもつ。


2.5. 光触媒作用

太陽や蛍光灯などの光が当たると、その表面で強力な酸化力が生まれ、接触してくる有機化合物や細菌などの有害物質を除去する作用をいいます。

2.5.1. 光触媒作用の仕組み

酸化チタンの光触媒作用は次のような原理で働きます。

①紫外線が当たる

酸化チタンに光(紫外線)が当たると、その表面から電子が放出します。このとき、電子が抜け出た穴(正孔)はプラスの電荷を帯びています。


②OHラジカルが生まれる

正孔は強い酸化力をもち、水中にある水酸化物イオン(OH-)などから電子を奪います。電子を奪われたOH-は非常に不安定な状態のOHラジカルになります。

③有機物を分解する

強力な酸化力を持つOHラジカルは周辺にある有機物から電子を奪い、自分自身が安定になろうとします。電子を奪われた有機物は結合を分断され、二酸化炭素や水となって大気中に発散されます。

2.5.2. 光触媒作用のメリット

光触媒作用には、大きく分けて5つのメリットがあります。

①大気浄化

自動車の排ガスなどから排出される窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)をはじめとする環境汚染物質を除去し、大気を浄化します。

②脱臭

アンモニア、アセトアルデヒド(タバコ臭)、メチルメルカプタン(にんにく臭)、硫化水素(腐卵臭)などの悪臭物質を除去します。


③浄水

テトラクロロエチレンやトリハロメタンなど、水道水に含まれる有機塩素化合物などを分解除去します。

④抗菌

表面に接触してくる細菌を殺し、その死骸をも分解します。

⑤防汚

表面についた油分を分解することで、砂や埃が付着するのを防ぎます(セルフクリーニング効果)。

2.7. 発色性

2.7.1. 陽極酸化法による発色

チタンは、陽極酸化法(※)によって透明の酸化皮膜を形成し、塗装や染色をすることなく鮮やかな色をつけることができます。これは、光の干渉を利用するもので、シャボン玉が虹色に見えるのと同じ原理です。

Nigi

提供:ロゴストロン株式会社


チタンタンブラー「みはかり」

提供:ロゴストロン株式会社

チタン板に陽極酸化処理を施しUVインクジェットで絵柄を蒸着処理

提供:井坂 健一郎氏(山梨大学大学院教授)

2.7.2. 酸化被膜による発色の特徴

①質感の保持

金属の質感が失われないので、金属光沢を残すことができます。酸化皮膜の厚さが1ミクロン(1,000分の1ミリ)以下なので、精密機械部品、医療用部品、電子部品など、高い寸法精度が要求される素材にも対応できます。

②発色の耐候性

酸化発色皮膜による耐候性・耐食性のおかげで、屋外使用の場合でも、場所、用途、メンテナンスなどの条件が整えば半永久的に劣化しません。紫外線、風雨の影響を受ける瓦材として適しています。

③環境負担の低減

塗料や染料を使用しないため、この方法によって作られた製品は一般のステンレス製品と一緒にリサイクルが可能で、環境負荷の低減に繋がります。


※陽極酸化法

チタンの酸化被膜(TiO2)は本来無色透明ですが、厚みによっては、そこを透過した光と反射光による干渉作用によって様々な彩色が現れます。

陽極酸化法は、この酸化被膜の厚さを電解装置の電圧でコントロールし、チタン表面を目的の色に着色する方法です。メッキや塗装と比べて、チタン本来の機械的物性や耐候性、質感を失わず、剥がれや脱落の無いことが利点です。

通常、チタン材の表面には経時変化や切削加工などによって酸化被膜が形成されます。陽極酸化で目的の彩色を得るためにはそれを除去する必要があります。クリーンエッチはTCP処理(Titanium Chemical Polishing)をすることでチタン材の表面を清浄化し、最適な表面状態に仕上げます。

2.7.3. 結晶華飾法による表面処理

アルゴンガスで充満した炉でチタン母材を1,200度まで加熱、徐々に冷却することで、特殊な結晶構造が現れると同時に材質がやや軟化します。これを「結晶華飾処理」といい、新潟県燕市に本社を置く株式会社ホリエ(※)が独自に開発したチタンの表面処理法です。


※株式会社ホリエ(http://www.horie.co.jp/japanese.html)

1988年よりチタン製品の製造・加工・技術開発を行うチタン専門メーカー。陽極酸化法によりチタンに緻密なグラデーションの発色を持たせる技術は世界でホリエのみが有し、世界各国でモニュメントの発色などを請け負う。2重タンブラーの他、自由な発想と高い技術力でチタンの特徴を活かした製品を展開。チタン製の魔法瓶を世界で初めて開発。

チタンタンブラー ㈱ホリエ製品

出典:株式会社ホリエ WEBサイト

チタンペンダント 結晶華飾処理をしたチタンに陽極酸化処理を行っている

提供:ロゴストロン株式会社

2.8. 音響特性

結晶華飾処理されたチタン材は比剛性が高く内部減衰が小さいことから、高域スピーカーの振動板や、チェロやギターなどの音響特性向上に応用されています。





チタン棒の一端を吊るして金属棒で叩いたとき、チタン棒の振動余韻があることを示している

提供:ロゴストロン株式会社

2.9. 加工における問題点

チタンは耐食性、耐熱性、高強度など優れた材料特性を示しますが、その特性ゆえ、以下のような理由から難削材に分類されます。

①科学的に活性であるため、切削速度が増すと切削部の温度が高くなって活性度が増し、工具の磨耗が大きくなる。

②熱伝導率が小さいため、切削時に発生した熱が工具と加工材に蓄積し、工具の磨耗が大きくなる。

③ヤング率が小さいため、切削の際に加工材が大きく変形しやすく、薄物の加工では加工精度の低下や「びびり」が生まれる。


④継続的な変形によって切り屑が生成されるため、刃先に加わる抵抗の変動が大きくなり、刃先の欠損や摩耗が起こりやすい。

⑤磨耗した工具や薄い切りくずが出た場合に、熱で切りくずが発火することがある。

<精密加工の可能性>

近年、3Dプリンターの技術革新により、チタン粉末をレーザーエネルギーで溶かしながら瞬時に固体化させ成形する手法が確立し、実際のものづくりの現場で活用されている。

3. チタンの種類

チタン材料は、おもに純チタンとチタン合金の2種類に分かれます。

3.1. 純チタン

JIS1種、2種、3種、4種などがあります。チタンの純度は1種が最も高く2種、3種、4種とだんだん低くなっていきます。特性のひとつとしては、1種が最も柔らかく、2種、3種、4種と数字が大きくなるほど硬くなります。

3.2. チタン合金

チタン合金とは、チタンが本来持っている特性を活かしつつ、他の金属(アルミニウム、バナジウム、パラジウム、モリブデン、クロム、ニオブなど)

を添加することにより、機械的・物理的・化学的な性質をさらに高めたものです。チタン合金は、先端製品、未来技術の開発に不可欠な材料として利用されています。なかでも、航空機などによく使われる JIS60種(64合金)は高強力ですが、難削材であり、加工が難しいという問題点があります。

これに着目して開発されたのがβ系の15-3-3-3などのチタン合金です。64合金とほぼ同等の強度を持ちながら、冷間での加工性は64合金より優れているのが特徴です。

4. チタンの用途

チタンは軽量・高強度・高耐食性を中心とした特性を生かして、様々な用途に利用されています。

4.1. 軽量、高強度、高耐食

①航空・宇宙…機体構造材、ロケット部品、エンジン部品

②火力・原子力発電…復水器、タービンブレード

③海洋開発…海水淡水化装置、深海艇

④化学・石油化学…反応槽、熱交換器、めっき装置、エッチング装置 、タンクローリー

⑤自動車…エンジン部品

4.2. 極低温特性・超伝導特性

低温機器、超伝導発電機、CTスキャナー

4.3. 非磁性

電子機器、精密機器

4.4. 無毒性・生体親和性

医療・食品…心臓弁、人工骨、車椅子

4.5. 短い放射性・半減期

原子力廃棄物処理、再処理装置

4.6. その他

スポーツ用品・日用品…腕時計、ゴルフクラブ、テニスラケット、めがねフレーム、自転車






<鏡への応用>

七沢研究所ではチタン板を鏡面研磨加工し、神事に用いる鏡として活用している。画像は鏡面研磨加工前の荒削りの状態。

光触媒作用を神道の祓いに応用できるのではないかと研究段階である。

提供:ロゴストロン株式会社

Information

LOGOSTRON Material Lab Report 001

畑野 嶺/七沢智樹/松林政之

発行日 2018/9/18

発行者 株式会社七沢研究所 - ロゴストロンマテリアルラボ

〒400-0822 山梨県甲府市里吉4丁目8番35号

Tel 0120-653-106/FAX 055-236-0033/Email kc@nanasawa-g.jp