Silicon-シリコン
Summary
シリコン(Silicon)はケイ素(珪素、硅素)とも表記される元素です。地球の表層部に最も多く存在する元素は酸素(約50%)で、シリコンは二番目、約26%を占めています。
土壌や岩石に豊富に存在し、天然水、樹木、植物などにも含まれる「最もありふれた元素」のひとつといえます。
河原などで見かける白い石は、酸素とケイ素が結合した二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とするケイ石です。
工業用のシリコンは、ケイ石を還元する(酸素を奪う)ことによって作られた金属シリコンで、半導体など幅広い分野で使われています。
なお、美容整形や体内のパーツに使用されるシリコーン(Silicone)は、金属シリコンにメチルアルコールなどの有機化合物を結合させた化合物であり、本レポートの対象外とします。
目次
1. 概要
1.1. 歴史
1.2. 基本情報
2. 特性
2.1. 半導体
2.2. テラヘルツ波の高い透過性
3.シリコンの種類
3.1. 結晶とは
3.2. シリコンの精製と結晶構造
3.3. シリコンの加工処理技術
3.4. シリコンの用途
1. 概要
1.1. シリコンの歴史
1787年、アントワーヌ・ラヴォワジエがラテン語で「燧石(すいせき)」を意味する「silex」「silicis」 にちなんで「silicon」と名づけ、はじめてケイ石を元素として記載しました。
1800年、ハンフリー・デービーにより、ケイ石が化合物と判明したことから、シリコンを元素とするラヴォワジエの主張は否定されました。
1823年、イェンス・ベルセリウスが、四フッ化ケイ素とカリウムを加熱して、シリコンの単離に成功しました。
1959年、アメリカ・フェアチャイルド半導体社のロバート・ノイスらが、シリコン集積回路(IC)を開発しました。
1981年、米国ウィスコンシン大学教授ロバート・ウェストらにより、シリコンの二重結合化合物であるジシレンがはじめて人工的に作られました。
2004年、筑波大教授 関口章らが、シリコンの三重結合化合物の合成に成功しました。
1.2. 基本データ
・元素記号:Si
・融点:1,414℃
・電子配置:[Ne] 3s2 3p2
・原子量:28.0855
・電子数:2, 8, 4
・原子番号:14
2. 特性
2.1. 半導体
物質には電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」とがあり、半導体はその中間の性質を備えた物質です。
導体は電気抵抗が低く、電気を通しやすい金、銀、銅などが該当します。
絶縁体は電気抵抗が高く、電気が通りにくいゴム、ガラス、セラミックスなどが該当します。
半導体は温度によって抵抗率が変化することが特徴で、低温時ではほとんど電気を通しませんが、温度が上昇するにつれて電気を通しやすくなります。
また不純物の含有量が少ない半導体はほとんど電気を通しませんが、ある種の元素などを加えることで電気を通しやすくなります。
このような特徴を利用し、電流を一方向のみに流すダイオードや、電気信号を増幅したり、高速にON/OFFする機能をもつトランジスタなどの半導体素子(電子部品)が製造されています。
2.1.2 半導体材料としてのシリコン
パソコンやテレビ、スマートフォン、ICカードなど、身近な電化製品に幅広く使われている半導体。その半導体に最も多く使われている素材がシリコンです。
シリコンは、単一の元素からなる「元素半導体」であり、ウエハーなどに使われる工業用シリコンには超高純度(99.999999999%)の単結晶構造が必要なため、金属シリコンとして精製された後、さらに精製を要します。
シリコンの精錬には大量の電力が必要なため、日本では電力が比較的安価なオーストラリアや中国、ブラジルなどから、すでに精錬された金属シリコンのインゴット(純度98%以上)を輸入しています。
また、高精度のシリコンウエハーを製造するには極めて高い技術が必要であり、その市場シェアの1位、2位を日本企業が占めていることは特筆すべきことです。
2.2. テラヘルツ波の高い透過性
2.1.1. テラヘルツ波とは
シリコンは、テラヘルツ波を透過しやすい性質を持ちます。
テラヘルツ波には明確な定義がありませんが、一般的には周波数300GHz〜3THz(波長100µm〜1mm)帯の波長を指します。
テラヘルツ波は光波と電波の中間領域に当たる波長を持ち、金属以外の物質を透過しやすく、人体に優しいこと、対象の物質を正確に把握できることから、空港のセキュリティチェックや病院の検査などにも有効とされています。霧や雲、水蒸気などはある程度透過しますが、大気中ではこれらに吸収されるため減衰が大きく、伝搬距離が限られます。液体となった水や金属のような導電体は透過しません。
エックス線との大きな違いは、テラヘルツ波の物質に対する透過性は、物質との相互作用によって物理的に決定されるということです。
テラヘルツ波の周波数は、物質を構成する分子の振動数とほぼ一致することから、様々な分子の性質を調べることが可能で、これが検査などで重宝されているのです。
2.1.2. シリコンとテラヘルツ波
このようなテラヘルツ波の特徴を活用したテラヘルツカメラは、対象物の像のみならず、それがどのような材料でできているのかを同定することができます。
天文学者などの科学者たちは、テラヘルツ波が注目される前から宇宙・環境計測の分野でこれを活用し、大気や宇宙を観測してきました。
例えば、星の一生と、星が発する電磁波との間には密接な関係があり、星が生まれる前の状態(星間分子雲や原始星)ではミリ波やテラヘルツ波が発生します。
つまり、テラヘルツ波には、星や宇宙が形成される最も初期の段階の情報が多く含まれているということです。
このような特長から、テラヘルツ波を透過しやすいシリコンは、特殊な天体望遠鏡のレンズの材料として採用され、最新の宇宙研究の場で活躍しています。
3. シリコンの種類
シリコンは、精製によって生じる結晶構造をもとに、3種類に分けることができます。
3.1. 結晶とは
結晶とは、原子や分子が空間的に繰り返しのパターンで配列されている物質を指します。
3.1.1 単結晶
全体がひとつの結晶からなり、原子が3次元的に規則正しく繰り返しながら並んだもので、結晶のどの位置であっても結晶軸の方向が変わらないものをいいます。
単結晶には、物質そのものが持つ特性が顕著に表れます。それぞれの物質の電気的特性、機械的特性、光学的な特性を活用して、さまざまな工業分野で応用製品が開発、実用化されています。
3.1.2. 多結晶
多数の微小な単結晶、すなわち微結晶(結晶粒、結晶子)から構成されている個体を指します。多結晶の物体は、多結晶体、または単に多結晶と呼ばれます。多くの金属やセラミックスは多結晶体です。
一般的に、多結晶は単結晶より強度が低いことが特徴です。
3.1.3 アモルファス
アモルファス(非晶質・ひしょうしつ)とは、結晶とは異なり、短距離秩序(同じ繰り返しパターンが短い)はあるものの、長距離秩序がない物質を指します。
結晶状態とアモルファス状態では、同じ材料でも条件によって物性(電気伝導性や熱伝導性、禁制帯幅、光透過率や光吸収率、透磁率、超伝導性など)が大幅に変わる場合があります。
3.2. シリコンの精製と結晶構造
工業用に使用されているシリコンは、シリコンが多く含まれるケイ石などを精製することで、金属シリコン、多結晶シリコン、単結晶シリコンへと純度を上げていったものです。
それぞれの精製プロセスは以下の通りです。
3.2.1 金属シリコンの製造
シリコンは普通、ケイ石(二酸化シリコンSiO2)の形で存在しています。
ケイ石と、木炭などの炭材を投入した電気炉に大電流を流し、1,900℃程度に温度を上げると、還元作用によって炭材から出るガスがケイ石から酸素を奪い、ケイ素が金属状に遊離します。
この工程で98〜99%と純度の高い金属シリコンへと精製されます。
3.2.2. 多結晶シリコンの製造
金属シリコンを微細な粉状に砕いて塩酸に溶かすと、トリクロルシラン(SiHCl₃)という無色透明の物質が得られます。
熱分解法によって高純度化したトリクロルシランと超高純度の水を反応器に入れ、シリコン芯線を加熱すると、その表面に棒状の多結晶シリコンが析出します。
多結晶シリコンは小さな単結晶シリコンの粒がたくさん集まったものですが、この段階で不純物が1,000億分の1まで取り除かれ、99.999999999%(イレブンナイン)まで高純度化されます。
3.2.3 単結晶シリコンの製造
多結晶シリコンから単結晶シリコンへと精製する方法は、大きく分けてCZ法(チョクラルスキ法)とFZ法(Floating Zone法=浮遊帯法)の二つがあります。
① CZ法(チョクラルスキ法)
砕いて洗浄した超高純度の多結晶シリコンを石英るつぼに入れ、微量の導電型不純物とともに加熱炉で溶かします。このとき同時に微量の導電型不純物(添加材またはドープ剤と呼ぶ)を必要量だけ添加します。
次に、液状になったシリコンに、ピアノ線で吊り下げた小さな種結晶を接触させます。
このとき、種結晶を回転させながらゆっくりと引き上げることで単結晶が形成され、温度や引き上げ速度を調整することで結晶の大きさや特性が決まります。
引き上げはアルゴンガスが含まれる引き上げ炉の中でおこなわれ、成長した結晶は種結晶と同様、完全な単結晶になります。
② FZ法(Floating Zone法=浮遊帯法)
添加剤を加えたアルゴンガスの中で、高周波電圧を印加したコイルを用い、棒状の多結晶シリコンを溶かします。
液状になったシリコンに小さな種結晶を接触させ、コイルを上下に動かすと、棒全体が単結晶化します。
CZ法(チョクラルスキ法)
FZ法(Floating Zone法=浮遊帯法)
3.2.4. 単結晶シリコンの特性
① 超高純度
1㎤に切り出したシリコンの単結晶中には、
約5×1022個のシリコン原子が存在し、規則正しく結合し整列しています。
超高純度の単結晶シリコンは99.999999999999%(14ナイン)以上の純度で、不純物の比率は100兆分の1以下になります。
② 結晶方位
結晶は単位格子の集まったものです。単位格子は原子によって作られる面の集まり(結晶面)で構成されます。結晶はこの結晶面が等間隔で平行に並んでおり、その並びの方向を結晶方位といい、ミラー指数を使って表します。
単結晶の特性は結晶の種類や質だけでなく、多くの場合、その方位に強く依存します。
単結晶を工業的に利用するためには結晶方位の決定が不可欠であり、その方法としてはX線回折が一般的です。
ICなどの半導体素子の材料となるシリコンウエハーでは、CZ法で生産された「ミラー指数{100}」の結晶が使われています。
【Silicon-FZ111】
先端半導体に使用されるシリコンの中でも、FZ法で製造されたシリコンの単結晶【Silicon-FZ111(14ナイン、水平断面{111}】は、自然界に存在するあらゆる物質の純度・構造の精度をはるかに上回り、特殊な天体観測望遠鏡などに使われています。
③ ダイヤモンド構造
多数の原子がすべて共有結合によって繋がり、規則正しく配列している結晶を「共有結合の結晶」といいます。
共有結合の結晶は非金属の原子が多数結合しているので、巨大分子ともいわれます。
共有結合のなかでも、シリコンが属する14族の元素は、最外殻電子(価電子)4個を持ち、最近接原子数(配位数)4、第2隣接原子数(次に隣接する原子の総数)12 で、多くの場合、正四面体結合するダイヤモンド構造になっています。
ダイヤモンド構造は、2組の同じ原子からできた面心立方格子を対角線長の4分の1ずらした構造となっており、他の構造に比べて隙間が多いことが特徴です。
シリコンは、8個のシリコン原子を持つ単位格子によるダイヤモンド構造になっており、各々のシリコン原子は、4つの結合手によって周囲の4個のシリコン原子と結合しています。
ダイヤモンドのダイヤモンド構造よりも結合力が弱く、光や熱によって結合の一部が切れやすいため、そこで生じた不対電子が自由電子のような働きをして、温度などの条件によって電導性を生じます。
この特性が、シリコンを半導体素子の材料として用いる理由です。
3.3. シリコンの加工処理技術
半導体ウエハーなど、工業用で使われる単結晶シリコンは、極めて正確に切削・研磨する必要があります。
純水製造過程(イオン交換膜法など)を3回繰り返すことで作られる超超純水(超高純度の超純水)がそのような切削・研磨技術に活用されています。
3.4. シリコンの用途
① 赤外光学
特定の周波数領域の電磁波を高い比率で透過させるレンズや窓の素材(宇宙観測等で活用される)
② 半導体
コンピューターのCPU、液晶ディスプレイ、太陽電池
③ シリコン含有合金
・電気炉における製鉄材料、脱酸素剤
・変圧器
④ シリコン含有セラミックス類
・グラスウール(断熱材、吸音材)
・ゼオライト(イオン交換・吸着剤、有機化学工業における触媒、カルシウム除去による水の精製)
・シリカゲル(活用範囲が広い乾燥剤)
⑤ 炭化ケイ素
耐火材、抵抗材/研磨剤(高いモース硬度9.5)
陶器やセメント・レンガの主成分